発達障害の診断って必要?こどもの個性を伸ばすために知っておきたいこと

発達障害の診断って必要?こどもの個性を伸ばすために知っておきたいこと

 お子さまの成長を見守るなかで、「うちの子、もしかして発達障害かも?」と気になったことはありませんか? 発達の個人差は大きいため、周りの子と比べて不安になることもあるでしょう。 しかし、「発達障害」とはどのようなものなのか、診断を受けることでどんな意味があるのかを正しく理解することが大切です。

 本記事では、発達障害の基本的な考え方や、診断の目的、診断が子どもに与える影響などについてわかりやすく解説していきます。


こどもの行動には理由がある

 まずは、発達障害の基本的な考えとして、こどもが取る行動にはこどもなりの理由があることを理解する必要があります。

  • 言葉の理解が遅い? → その子に合った伝え方になっていないのかも。
  • マイペースすぎる? → 自分の気持ちでいっぱいで、周囲に気づきにくいのかも。
  • すぐ気が散る? → 刺激や情報を整理するのが苦手なのかも。
  • こだわりが強い? → 考え方がとても真面目なのかも。
  • 人に関心がない? → よく言えば、ひとりで過ごす力、集中力があるのかも。

 お子さんの行動には理由があり、その背景を知ることで適切な対応が見えてきます。

こどもの行動の背景を考える

 お子さんの行動を見て「どうしてこんなことをするの?」と戸惑うことはありませんか?実は、その行動の背景を知ることで、対応の仕方が変わってきます。

●同じ行動でも、様々な背景が考えられる場合

 例えば、集団行動に参加せずひとりで遊んでいる場合、次のような理由が考えられます。

  1. 周りの状況に意識が向いていない:何をする時間なのか、他の子が何をしているのかに気づいていない。
  2. 活動そのものが理解できない:やるべきことがわからず、楽しめない。
  3. 興味の幅が狭い:特定の遊びにしか関心がなく、他のことには興味を示しにくい。
  4. 刺激に影響を受けやすい:周囲の音や動きに気を取られ、気持ちを整理するのが苦手。

●行動は異なっていても、その背景が共通している場合

 例えば、「なんだかよくわからない…」「困った、つまらない」と感じている場合、次のような行動をとるかもしれません。

  1. Aくん:ぼんやりしていたり、ニコニコしているが、反応があいまい。
  2. Bさん:逃げたり、ふざけたり、「やりたくない」と拒否する。
  3. Cくん:自分のやり方にこだわり、強引に進めようとする。

 行動が違っていても、「活動の意味がわからない」という共通の理由があるかもしれません。お子さんの行動の背景を考えることで、適切なサポートがしやすくなります。

発達の「遅れ」と「偏り」の違い

 次に、発達障害を理解するうえで、「遅れ」と「偏り」の違いを知っておくことが重要です。

発達の遅れ(ペースの問題)

  • すべての発達が同じようにゆっくり進む
  • 定型的な発達の流れと同じ方向に成長するが、年齢相応ではない
  • 一般的な育児と共通する対応が可能

発達の偏り(バランスの問題)

  • ある分野では年齢以上の能力があるが、別の分野では極端に苦手
  • 定型的な発達の流れとは異なる
  • 特性に合った対応や環境の調整が必要

発達障害の診断

 「発達の遅れ」は、知能検査(IQ)や発達検査を用いて評価します。一般的に、同年齢の子どもの平均を100とした場合、IQが70~75以下の場合に発達の遅れがあると判断されます。 これは、新しいことを理解し学習する力、物事を考え判断する力などの知的機能に影響を与えます。一方で「発達の偏り」は、知能検査で高く評価されることがあります。

 しかし、近年ではIQの数値だけではなく、その子の適応能力や日常生活での力を重視する考え方が主流になっています。 具体的には、生活習慣の習得のしやすさや社会生活に必要なスキルがどの程度身についているかが、発達障害の診断の基準となります。

発達障害のタイプと個性との違い

発達障害のタイプ

 ここで、発達障害の種類を挙げておきます。発達障害には、大きく分けて次のようなタイプがあります。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):対人関係が苦手、こだわりが強い。
  • 注意欠如・多動性障害(ADHD):集中力が続かない、落ち着きがない。
  • 学習障害(LD):知的な遅れはないが、読む・書く・計算することが極端に苦手。

 発達障害の特性は単独で現れることもあれば、いくつかが重なることもあります。

診断のタイミング

 発達障害の診断には適した年齢があります。

  • 自閉スペクトラム症(ASD):3歳ごろから判断可能
  • 注意欠如・多動性障害(ADHD):6歳ごろまで様子を見ながら判断
  • 学習障害(LD):小学校に入ってから最終的に判断

 診断を急ぐ必要はありませんが、困りごとがある場合は早めに相談することで適切な支援を受けやすくなります。

個性との違い

 発達障害の特性は、行動の観察や評価を通じて判断されます。 以前は「発達障害」と「個性」は明確に分けられていましたが、現在はその境界が曖昧になり、「発達障害」は個性の延長線上にあるものと考えられています。

 では、「個性」と「発達障害」の線引きはどのような視点で判断されるのでしょうか。

  1. その特性によって本人や周囲が困っていないか?
  2. 一般的な育児方法でスムーズに対応できるか?

 つまり、特別な工夫が必要な育て方が求められるかどうかがポイントになります。

自閉スペクトラム症とは?

 ここでは、発達障害の中でも多い自閉スペクトラム症について解説します。

 自閉スペクトラム症(ASD)とは、「社会的コミュニケーション」と「興味や行動」に共通の特徴を持ち、日常生活で困難を感じることが多い発達特性のひとつです。ASDの原因は生まれつきの「脳のタイプ(機能)」によるもので、特有の発達の仕方をします。機能の問題であるため、病院で脳の検査をしても異常が見つからないことが一般的です。

 現在のところ、なぜASDの特性を持つ人がいるのかははっきりとわかっていませんが、生物学的な要因が関与していると考えられています。育て方や家庭環境が原因ではなく、ものごとや環境に対する感じ方・理解の仕方・意味づけの仕方が一般とは異なるスタイルで発達していくのが特徴です。

1. 社会的コミュニケーションや対人関係の特徴の例

 ASDの人は、コミュニケーションの取り方や他者との関わり方に独特の特徴があります。

  • お友だちと一緒におままごとをする場面で、一人だけ別のおもちゃで遊んでいる。これは、他者への関心や共感、やりとりを楽しむ力が不足しているために起こることがあります。
  •  嫌がっている友達に「大好き!」と言って抱きつく、または電車で隣の人に一方的に話しかける。これは、相手に合わせた適度な距離感や、社会的状況に合った行動をとることが難しいことを示しています。
  •  保育園や幼稚園でみんなが座って先生の話を聞いているとき、「わぁ、あれ何!」と急に立ち上がってしまう。これは、場の空気を読むことや暗黙のルールを理解することが難しいために起こります。
  •  先生が「〇〇さん、さようなら!」と声をかけても、全く違う方向に向かっておじぎをする。また、親に「そろそろお片付けして」と言われると、「お片付け、お片付け…」と繰り返すだけで実際には片付けに移れないことがあります。
  • 話し方が妙に丁寧だったり、言葉の使い方が厳密すぎたり、声の大きさやトーンが場面に合っていなかったりすることがあります。

2. 興味・行動の特徴の例(柔軟な対応が苦手)

  •  おもちゃでいつも同じ遊び方(例:車を横に並べるだけ)をする。
  •  (例えば)ナンバープレートやマンホール、看板ロゴなど特定のものに強い興味を示し、深く没頭する。
  •  手順や道順に強いこだわりを持つ。例えば、「帰宅→スイッチを入れる→窓を開ける」などの決まった流れを崩されると不安になる。
  • 新しい環境や予定の変更に強い不安を感じ、パニックになることがある。
  • 気持ちや行動の切り替えが難しい。
  • 勝ち負けにこだわりが強く、負けると大きく落ち込むことがある。
  • 自分のルールを厳格に守るだけでなく、他人にも同じルールを適用しようとする。

3. イマジネーションの特徴の例(抽象的な概念の理解が苦手)

  • 「りんご」「みかん」と具体的な言葉は理解できるが、「くだもの」と抽象的にまとめるのが難しい。
  • 「順番だよ」と言われても、「順番」という概念が理解しにくい。
  • 「楽しかったことを絵に描いて」と言われても、「楽しかったこと?」と戸惑ってしまう。

4. 感覚の偏り

 ASDの人は、感覚の過敏さや鈍感さが多いことが近年注目されています。

  • 特定の音、触覚、匂い、味に対して強い苦手意識を持つ
  • 痛みや温度の変化に鈍感なことがある
  • 光や動き、模様をじっと見る
  • 物を回したり、並べたりする行動に夢中になる
  • 単調な運動(ジャンプなど)を繰り返す
  • 意味のない発声をすることがある

5. その他の特徴

① 認知能力の偏り

  • パズルや計算が得意なことが多い
  • 機械の操作をすぐに覚える

② 記憶力の良さ

  • 何年も前の出来事を細かく覚えている
  • 道順の変化に敏感に気づく

③ 注意や衝動性の問題

  • 落ち着きがなく、外では目が離せないことがある

④ 運動の不器用さ

  • 手先の動きがぎこちない、体の使い方が不自然に感じられる

自閉スペクトラム症の特徴への理解

 最近の「自閉スペクトラム症」の診断は、白か黒ではっきり分かれるものではなく、個性や発達の特性が連続的に存在するものとして考えられています。そのため、以前よりも幅広く診断されることが増えています。

わかりやすい特徴と気づかれにくい特徴

 自閉スペクトラム症の特徴には、周囲がすぐに気づきやすいものと、見過ごされがちなものがあります。

気づかれやすい特徴

  • 目が合わない
  • 一人遊びが多い(周囲の人やお友だちへの関心がうすい)
  • おうむ返しや意味のない独り言が多い(会話がパターン化している)

気づかれにくい特徴

  • 人と笑顔で接したり視線を向けたりするが、会話のキャッチボールが苦手
  • よく話すが、一方的で相手の反応をあまり気にしない
  • 言葉のやり取りはできるが、相手の感情や意図を理解しづらい
  • 集団活動には参加できるが、場の雰囲気や流れに馴染みにくい

その子の社会性で分けられるタイプ

 自閉スペクトラム症のこどもたちは、社会性の面で大きく3つのタイプに分けられます。

  1. 孤立型
     人との関わりがほとんどないか、特定のパターンのみで関わる
  2. 受動型
     自分からは積極的に関わろうとしないが、相手からの働きかけには応じる
  3. 積極奇異型
     積極的に関わるが、一方的で相手の気持ちや状況に配慮しにくい

 このうち、「1.孤立型」は比較的わかりやすいですが、「2.受動型」や「3.積極奇異型」は気づかれにくいことが多いです。

診断の目的とメリット

 発達障害は病気ではないため、「治す(治療する)」ことはできません。しかし、診断をすることにより、適切な関わりを通じて「うまく育てる」(療育する)ことは可能です。

診断のメリット

  • 目に見える「困った行動」だけでなく、その背景を理解できる
  • 診断名をキーワードに、適切な対応方法を周囲と共有しやすくなる
  • 療育センターだけでなく、幼稚園・保育園・学校などとも情報を共有し、一貫したサポートが受けられる

適切でない環境だと…

 こどもにとって:

  • いつもうまくいかず、「どうしたらいいのかわからない」
  • 理由がわからず叱られることが多く、自信をなくす

 親にとって:

  • 頑張って育てているのに、思うようにいかない
  • 周囲の目が気になり、疲れて子どもをかわいがる余裕がなくなる

適切な環境が整うと…

  • 視覚的な手がかりを活用しやすくなる
  • 一度身についた習慣が定着しやすい
  • ルールを理解すれば、しっかり守れる
  • 整理された環境なら、一人で安定して過ごせる
  • 自閉症の特性が強みになることも

うまく育てる(療育する)とは

 療育のスタート地点は、「専門機関での特別なプログラム」ではなく、周囲がお子さんの特性を理解し、適切な対応を共有できるようになることです。療育とは特別なトレーニングではなく、子どもに合った環境を整えることが重要です。

診断を受ける意味とは?

 まとめると、診断を受けることは次のような意味があり、うまく育てることが目的です。

  1. 子どもを理解するため
     → どのように関わればよいのかがわかる
  2. 将来の見通しを立てるため
     → 適切なプランを考えられる
  3. 必要な情報を集め、サポートを受けやすくするため
     → 本人や家族の負担を減らせる

 自閉スペクトラム症の特性は、環境次第で強みにもなり得ます。子どもに合った関わり方を見つけて、無理なく成長をサポートしていきましょう。

まとめ

 「発達障害かもしれない」と感じたら、一人で悩まずに相談してみましょう。

  • お子さんの行動には理由がある
  • 発達障害は病気ではなく、特性として理解することが大切
  • 診断を受けることで、適切なサポートや環境を整えられる

 お子さんが自分らしく成長できる環境を、周りと一緒に考えていきましょう。

 

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